自分は高校受験なので、中学受験のことは良くわからないんだが、御三家と呼ばれる麻布・開成・武蔵の入試日が2月1日で重なっていることについては、昔から疑問に思っていた。受験日ずらして併願出来るほうが、学校側も受験料が増えるし、受験者も併願出来た方が良いので、なぜ、あえて同じ受験日にしているのか不思議だったのだが…。この謎が先日の日経新聞で解けました。学校側の戦略があったんだ。
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■私立中入試―経済学で考える 競合校ほど試験日同じに
~違いの最小化が有利 受験機会の拡大へ規制も ~
2010/5/5付 日本経済新聞 朝刊
<以下、一部抜粋>
生徒獲得の戦略として、価格戦略と差別化戦略が考えられる。しかし、労働集約的な教育産業では、人件費を下げたり教師の数を減らしたりすることは困難なので、価格戦略はとりにくい。そこで、差別化戦略が考えられる。海外語学研修の機会を設けたり、大学の併設校になったり、宗教系の学校であったりといった差別化は可能である。しかし、教育の質を上げ有名大学合格者を大幅に増やすことで差別化するという戦略は、短期的にはとりにくい。
他方、競合校と競争しながら優秀な生徒を獲得する方法として、競合校との違いを最小にするという「最小差別化」戦略も考えられる。この点を明らかにしたのが、米国の統計学者ハロルド・ホテリングである。
ホテリングの有名な寓話(ぐうわ)は、一直線に横に広がるビーチで、2人のアイスクリーム売りがどこに店を構えたらいいかという立地場所決め競争の話である。ただし、海水浴客はまんべんなくビーチに居て、みなアイスクリームを食べたいと思っており、一番近いアイスクリーム屋に買いに行くものとしよう。また、アイスクリームの値段は同じだとする。
その時、競争の結果、2人のアイスクリーム売りは、ちょうどビーチの中央を境界にして隣り合わせに立地することになる。それぞれがビーチの右半分と左半分の需要を分け合っている状態だ。どちらかが少しでも中央から離れると、もう1人の売り子がその横にぴたりとつけば、半分以上の需要をとることができる。そのため、2人とも中央から動かない。これが立地場所の最小差別化である。
しかし、海水浴客全体からみると、この立地は望ましくない。アイスクリームを買うために移動する距離の総和がもっと小さくなる立地場所があるからだ。ビーチに等間隔に、つまり、左端から3分の1の距離の場所と右端から同距離の場所にアイスクリーム売りが立地している場合が、海水浴客全体の移動距離の総和は最小になる。この寓話の教訓は、価格が固定されているときに立地場所の競争を行うと、最小差別化がおこり、必ずしも消費者の利益にはならないということだ。
実際の経済はこれほど単純ではない。企業の新規参入は起こるし、価格競争も起こる。しかし、費用構造に大きな違いはなく、競争が厳しい産業では、最小差別化戦略がとられやすくなる。例えば、同一路線で競合する航空会社の出発時間がある時間帯に集中するのは、この理論から説明できる。実際、競争が厳しくなるほど出発時間が集中することが、米国やノルウェーの航空市場で確認されてきた。その集中は、特定の出発時間帯に対する需要の大きさからだけでは説明できない。出発時間の集中は、消費者にとって不便であることは間違いない。----
--競合校の入試が集中するということは、子供の学力に見合った学校の受験機会が少なくなることを意味している。第1志望校に落ちた場合、第2志望校は学力に見合っていなかったり、遠い学校になったりする可能性がある。子供の学力に見合っていて、希望する学校に入学できた状態が社会的にみて望ましいとするならば、現状はホテリングの寓話の教訓そのままで、望ましい状態ではない。
しかし、望ましい状態を実現するために、よりましな制度を導入するのは実際にはなかなか難しい。かつての国公立大学入試制度に、試験日を3回に分け、有力大学をそれぞれに割り振るという連続方式があったが、2年で崩壊してしまった。その理由は、東京大学と京都大学の両方に合格した学生の多くが東大に入学したからである。
もちろん入試解禁日さえ決めれば、私立中学が独自の判断で入試日を設定することに問題はないという考え方もある。しかし、私立中学といえどもすべて授業料や寄付金のみで運営されているわけではない。東京都の場合、都から生徒1人当たり40万円弱の経常経費補助が出ている。さらに、近年議論されているように、教育バウチャーを導入するなど私学に対する財政支援を今以上に増やしていくというのであれば、社会的に望ましい状態を実現するように、入試日程の規制も考えるべきであろう。
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教育産業は、まだまだビジネスチャンスがありそうだ。
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