チームが逆転負けしたうえに、本人がハンドの反則でPKを取られた後にもかかわらず、快く応対してくれたことに一行は恐縮した。しかも2日後、長谷部から、こんなメールが届いた。「あんな負け方だったので、どうしても気持ちがあがらず、暗い感じになってしまい、すいません。みなさん、お気をつけて旅を続けてください」。この心遣いに視察団は感銘を受けた。
ウォルフスブルクに限らず、視察先のクラブはどこも気持ちのいい態度で受け入れてくれたという。クラブがもてなしの心で満ちている。視察を先導したJリーグ・スタジアムプロジェクトの佐藤仁司さんは「立派なハードだけつくってもダメなんでしょうね。欧州のクラブは、素晴らしいハードと素晴らしいホスピタリティーをセットで備えている」と話す。
スコットランドのハーツでは他の観客とともに、試合前後にラウンジで飲食のサービスを受けた。その席にチームOBや若手選手、ハットトリックをした選手らが顔を出し、各テーブルを回って歓談に加わったという。若手選手にもそうした機会を与えているのは、もてなしの心をはぐくむ教育の一環らしい。
視察団はカルチャーショックを受けて帰ってきたが、こうしたホスピタリティーは欧州のクラブでは当然のものなのだろう。長谷部もそうした環境の中でプロとして鍛えられている。だから、あの心のこもったメールをさらりと送ってきたのだろう。(吉田誠一)
■欧州サッカー(ロナルド・レング)バルサ学校の教え 「謙虚が美徳」は例外的
リーガ・エスパニョーラ(スペインリーグ)のバルセロナでプレーしたことのあるMFフレブ(バーミンガム)が昨季、身を寄せたシュツットガルトでチームメートにこんな話を聞かせた。 「バルサが欧州チャンピオンズリーグで優勝したとき、ドイツ車が選手にふるまわれることになったんだ。モデルを自由に選べると聞き、僕は最高級のタイプをお願いした。そしたら同僚のシャビがとがめるんだよ。もっと小さな車でいいじゃないか、タダでもらえるのだから欲張ってはいけないよって」 ぜいたくに慣れたフレブも、やがて悟った。バルサ生え抜きの選手は「謙虚」なのだ、と。この言葉がこれほど当てはまるクラブは、ほかにあるまい。バルサとは、なにより選手の考え方を鍛えるクラブなのである。 「最高の選手=自らのプレーで同僚の成長を手助けする。偉大な選手=自分がチームの一員であるのをつねに忘れない」。これがバルサ学校の教え。この土壌ができているから、メッシやシャビ、イニエスタらは自分をスーパースターだと思いあがることがない。シャビは言った。「僕らは子供の頃からこのクラブにいるから、自然と慎みが身についてる。ふだんの態度同様、プレーもエレガントであろうとする」。慎みあってのエレガント、というわけ。
バルサ流のサッカーでスペインがこの夏のワールドカップ(W杯)を制して以来、サッカー界は「ちっとも偉ぶらないバルサ風の選手」を求めるようになったかにみえる。 ど派手でごう慢、90分間絶え間なく光り輝こうとするクリスティアーノ・ロナルド(レアル・マドリード)のような「フラッシュ・ゴードン」タイプは、この趨勢(すうせい)に押されて、どこやら居心地が悪そうだ。 もっとも、このエレガント信仰は一過性の流行にとどまるのではないか。多年の辛苦にめげもせず、自分の畑で選手を育てて実りのときを迎えたバルサは、あくまでも例外的な存在だからだ。 シャビは休みの日によく「きのこ狩りに出かける」(グアディオラ監督)という。 この振る舞いもサッカー選手としては奇行の部類に属し、高級車を乗り回してガールハントに精を出す面々が、こぞってシャビに倣うようになるとは到底思われない。(スポーツジャーナリスト)